講師コラム(第4回):V&Vメソッドの導入事例(2)
2019.07.19
A事務所は士業の事務所です。通常、こうした事務所は、一人の先生が業務を行っている、または、先生が複数の場合は小さな事務所の集合体のような縦割りの組織運営が多いのですが、約60名の従業員を擁し、士業事務所としてはわが国有数の規模を誇る同事務所の運営は、一般の事業会社とよく似ていて、いわゆる「製販分離」といって、製造部門と販売部門を分離することで効率化を図っています。製造部門は、同事務所では書類作成部門を指します。 その当時、同事務所の業績は、数年間、横ばいからやや右肩下がりの状態が続いていました。私たちは、「企業は放っておくと、どうしても属人的(ある業務を特定の人が担当 し、その人にしかやり方が分からない状態になること)な方向に向かってしまうもの」と考えています。この属人化が進むと、本来、組織に蓄積・共有されているはずのノウハウ や手法が個々人に属し、全く残らなくなるため、それが組織の成長を阻害するだけでな く、重大なトラブルを発生させるリスクを高めます。同事務所は、まさに、そうしたリスクをたくさん抱えているように見えました。そこで私たちは、V&Vメソッドを導入することにしました。具体的には、週一回の全体朝礼で、トップが会社の進むべき方向性やあるべき姿を「Vision」として提示し、これに全従業員から、その「Vision」に対して理解した内容を数行にまとめた「Voice」の提出をしてもらうようにしたのです。これを毎週繰り返します。もちろん、同事務所では、そのような取組みは初めてのことであり、最初はなかなかうまくいきませんでした。たとえば、トップの「Vision」に対する理解を書くべきところを、自分勝手な連想から、独自の見解をとうとうと述べてしまったりします。それでは組織への「Vision」の浸透は困難です。それから2年が経過し、修正・指導を繰り返しながら、この取組が功を奏して、さまざまな成果を得た今から振り返ると、その当時の従業員の「Voice」のアウトプットは、まさに、さまざまなリスクや問題を抱えた同事務所の当時の状況を、そのまま表わしていたと言えます。